Report 3

IoT×デザイン

「戦後72年、ライフスタイルが多様化になったのに、同じような家に住んでいる日本をちょっと変えてみたい。住まい手自身が暮らしの形を探り、新しい生活リテラシーを作り出すと、日本の産業がもっと面白くなると思う。」

(株式会社 日本デザインセンター 代表 原 研哉氏)

「ビジネス、テクノロジーとクリエーション、この三つのサイクルをきれいに回していくことが、企業にとってすごく大切だと思う。」

(株式会社 グッドデザインカンパニー 取締役 水野 学氏)

 

◆ 「家」は未来産業の交差点
   − 暮らしのかたちにして考える「HOUSE VISION」

最初の基調講演にご登壇にいただいたのは、著名デザイナー原 研哉氏(株式会社 日本デザインセンター 代表)。ライフワークとして取り組んでいる「HOUSE VISION」について構想とともに事例を紹介した。

(株)日本デザインセンター 代表 原 研哉氏
(株)日本デザインセンター
代表 原 研哉

ハイテクノロジーはどんなふうに未来を作っていくか。それを考える上で、一番わかりやすいプラットフォームとして家がある。HOUSE VISIONは、様々な産業の交差点に「家」を構想してみるプロジェクトである。

2013年と2016年二回東京で展覧会を行って、「家は産業において重要なコーナーストーン」であることがわかった。エネルギーや移動、ビッグデータの解析、伝統・文化の継承、老齢社会など、様々な問題と課題を家という交差点で解決していく。例えば家電製品はどんどん壁化あるいは環境化し、テレビや冷蔵庫といった単品から、家そのものが総合家電へと進化。やがて電力供給から通信・移動のシステムを含んだ大きな仕組みがハード、ソフトの両面でつながっていく。

2016年に開催された第2回展覧会(東京青海)の事例をいくつか見てみましょう。ハイテクノロジーだけではなく、暮らし方や美意識あるいは人間関係など、いろいろなフューチャリスティックな実験が仕込まれている。
会場は建築家隈研吾さんに頼んで仮設スペースを作っていただいた。できるだけ加工の少ない組み木構造で構築され、展覧会終了後に再利用できる狙いだった。

1. 冷蔵庫が外から開く家

(ヤマトホールディングス × 柴田 文江)

家の玄関とは別にもう一つの物流のドアがあって、毎日の食材やクリーニング、常備薬の補充など暮らしを支えるサービスが安全で確実に物流のドアからやってくる新しいスタイル。荷物の中にチップが入っていて、トレースするとビッグデータ解析ができ暮らしがきちっと把握できる。高齢社会の様々な問題は、このドア一つで解決できるかもしれない。

2. コミュニティがホストになる家

(Airbnb × 長谷川 豪)

日本の奥深いところにゲストに来てほしいというのがテーマ。場所は奈良県の吉野町。有名な吉野の杉と檜を活用し、吉野川沿いにコミュニティスペースとゲストハウスを組み合わせた「家」を建てた。Airbnbサイトを介して訪ねてきた旅行者を、地域の人たちが迎え、おもてなしする。旅行者はコミュニティに触れることで地域を深く知る。ゲストとホストの新しい関係作りで地域活性化に貢献している。

3. 拡張された皮膚となる「の家」

(パナソニック × 永山 祐子)

家は「外界から身を守る」プロテクトという役割から進化し、様々なサービスとのインタフェースとして機能するという未来像を具現化して見せてくれた。軽やかな「の」の字に曲げられた薄い壁は、IoTを受け止めるための映像スクリーンのようなもの。例えば家にクローゼットを持たず、壁にタッチして選んだものがすぐに車で運ばれてくる。家はまるで拡張された皮膚のように外界とつながる。

4. 棚田オフィス

(無印良品 × アトリエ・ワン)

IT技術の進歩によってパソコン一台でどこでも仕事のできる人たちが、稲田の光景を見ながら仕事をする拠点「稲田オフィス」。一階はコミュニティで二階はオフィス。高齢化が進んでいる農家を、若者が必要な時に手伝って草刈りや田植えをする。人口減少、高齢化、環境、都市と地方、伝統・文化の継承など山積する現代社会の課題は、このような新しい働き方により解決の糸口が見つかるかもしれない。

5. 遊動の家

(三越伊勢丹 × 谷尻 誠・吉田 愛)

新しいノマド時代への提案。世界中を放浪してPCがあればどこでもオフィスにしてしまう、ONとOFF、家とオフィスなど明確な境界を持たない、そんな価値観を持つ人を対象にしている。一つの空間の中に異なる屋根をつくり、土間と床を切り分けながら、いつでもホームパーティができる。世界は定住の時代から再び遊動の時代へと動いているかもしれない。

6. 賃貸空間タワー

(大東建託 × 藤本壮介)

従来の賃貸住宅はプライベートなスペースが多く、エレベータなど共有スペースを最小化するという構成。新しい賃貸空間タワーは、オープンな共有空間(キッチンや浴場、ライブラリー、庭テラスなど)の最大化と個人専有空間の最小化を提案している。一つ小さな街のようなもので、そこから様々なコミュニケーションが生まれる可能性を期待することができる。

7. 電波の屋根を持つ家

(カルチュア・コンビニエンス・クラブ × 原 研哉・中島 信也)

物理的な「屋根」ではなく、通信サービスで家族の関係を生み出す「電波の家」。お父さんは子供の位置情報や、おばあちゃんの1日の歩数や端末の充電状況などを把握でき、IoT技術により「分かれてつながる、離れて集まる」という新しい家族の関係性が具現化された。会場では観客はVRを顔に装着して「電波の屋根」のリアリティを堪能することができた。

パネルディスカッション 左:土谷 貞雄氏 中:永山 祐子氏 右:長谷川 豪氏
パネルディスカッション
左:土谷 貞雄氏 中:永山 祐子氏 右:長谷川 豪氏

2018年、HOUSE VISIONは北京の「鳥の巣」で展覧会を開催する予定。世界で一番、産業が沸騰している、IT技術が沸騰している、そして社会問題も沸騰している中国において、日中両国の企業や建築家たちは、どのような新しい世界を見せてくれるか、ご期待ください。


◆ ビジネス、テクノロジーとクリエーション

若い中国女性の中で絶大な人気を博しているネットオーディオメディア「ライチFM」。そのCEO 頼社長は、「くまもん」の生みの親として知られる水野学氏に対して、企業とクリエーションの関係や、日本と中国の連携についてインタビューと対談を行った。

左:水野 学氏 右:頼 奕龍氏
左:水野 学氏 右:頼 奕龍氏

頼氏:デザインするときにどんなことをしているか、または参考要素はなにか?

水野氏:デザインを研究作業だと思っている。何かに影響を受けるという考え方ではなく、自分の中あるいはクライアントの中に持っているあらゆるものを研究してカタチにしていく。例えば、ライチFMさんの場合、まずライチというものを研究する。大学機関に問い合わせたり様々な研究資料を読んだりする。そうすると、ライチというものはある一定の法則でできていることがわかった・・・

ダイヤモンドみたいに、原石はただの石に見えるが、磨いてきれいにカットしていけば美しく輝く。企業はダイヤモンドの原石みたいものではないかと思う。また、創る作業に加えて選ぶ作業に徹底している。たくさんのものを並べて、そこから客観的になって選んでいく。

頼氏:企業経営者は常に悩んでいるのは、デザインはユーザを満足させるものなのか、それともリードするものなのか?

水野氏:デザインは、機能デザインと装飾デザインによって成り立っている。機能デザインをしっかり充実させないと、ビジネスやテクノロジーのシーンにおいてリードすることはできない。

ビジネス、テクノロジーとクリエーション、この三つのサイクルをきれいに回していくことが、企業にとってすごく大切だと思う。大抵の企業は、ビジネスから始まって、そこにテクノロジーが伴っていく。クリエーションがどうしても遅れてくることが多い。
しかし、歴史を振り返ると、テクノロジーの進化につれて、ある種の文化が起こるものだ。大航海時代に新大陸が発見された後のルネッサンスや、産業革命の時のアーツアンドクラフト運動などはそうだった。マイケル・ポーターはIT革命が第三の波で、しかも三つの波でもっとも大きな波だと言っている。クリエーションにいち早く着手する企業は世界中で必要とされる企業ではないかと思う。日本市場を見ても、今IT企業と呼ばれている企業はどんどんリブランディングしている。

頼氏:企業はどのような目線でデザイナーを選んだほうがいいか?

水野氏:デザイナーの中には「プロトタイプ」と「ビルドアップタイプ」の2パターンがある。前者は、必要とされるかされないかに関係なく、今の世の中にないものにどんどんチャレンジしていく。後者は、売り上げ拡大やブランディング構築といった現実なところで力を入れる。

デザイナーとしては専門を両方でも、またはどっちに偏ってもいいが、企業側は両方のクリエーションに取り組んでいけるところは、今後のビジネスで勝負できるではないかと思う。
また、デザイナーを探す際に、デザイナーの仕事をよく見ること。その人の仕事によって企業がどう変わったか。売り上げがよくなったか、ブランドがよくなったか、社内のモティベーションが上がったか、つまりデザインの効果をよく見て決めることが大事だと思う。

頼氏:熊本県の観光業を盛り上げてくれた「くまもん」。それを設計するときに効果は予測したか?

水野氏:当初、熊本県の地域興しキャンペーンに「熊本サプライズ」マークを頼まれた。一旦作ったのだが、「これだけだと、熊本に人がこないじゃないか、つまりデザインは機能しないじゃないか」と考え、キャラクターを通じて人に呼びかけれることを思いついて「くまもん」を提案した。

「くまもん」が世の中で広まった一番の理由は、熊本県が僕から権利を買い取ったことだと思う。申請すればタダで使えるというふうに権利を解放したことは、本来クリエーターにとっては命取りだが、これによってキャラクターは広がった。つまり、前述のようにデザインは、装飾的な部分だけがよくてもだめで、機能的な部分も真剣に考えないといけない。機能というのは、仕組みづくりというところは大きなポイントである。

頼氏:中国は日本のデザインを必要としている。一方、障害もあるが、どう乗越えるか?

水野氏:文化、仕事の進め方、信頼などについてどこにでもある問題だと思う。大事なのは両国の橋渡しとなる存在が必要だ。例えばこの会、正直私は知らなかった。もっと拡散されることに大きな意味を持つと思う。もっとたくさんのデザイナーや企業がここにいるべきだと思う。
日本はデザイナーを使わない企業が増えているので、デザイナーはどんどん安価になって疲弊している。中国で活躍する場があれば、日本においても中国においても大きなメリットがある。

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